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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(あ)2677号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

弁護人副島次郎の上告趣意第一点および同桜木富義の上告趣意第一点について。

第一審判決は、被告人が三坂保より被告人の職務に関し、寝具、エバーライト一枚の供与を受けて収賄したとの公訴事実(一)の事実について、右物品の供与を受けた事実は認められるが、これを受くるに当り、被告人に収賄の犯意が存在した事実は、これを認めるに足りる証拠がなく、結局犯罪の証明がないとして被告人に対し無罪の言渡をしたところ、原審は、控訴審として検察官申請の証人渡辺乙を喚問して被告人の職務権限について取り調べただけで、事件の核心をなす被告人に収賄の犯意があったか否かの点について、何ら事実の取調をすることなく、右第一審判決を破棄して訴訟記録と第一審における証拠だけで本件公訴事実の存在を確定し、被告人に対し有罪の言渡をしたものであることは、本件記録に徴し明らかである。してみれば、原判決は、被告人に対する犯罪事実の存在を確定することなく被告人に対し無罪の言渡をした第一審判決を破棄し、本件事件の核心たる収賄の犯意の点について何ら事実の取調をすることなく、訴訟記録および第一審で取り調べた証拠のみにより、犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をしたもので、刑訴法四〇〇条但書の解釈適用を誤り、当裁判所の判例(昭和二六年(あ)第二四三六号同三一年七月一八日大法廷判決、刑集一〇巻七号一一四七頁、昭和三一年(あ)第四四七八号同三四年五月二二日第二小法廷判決、刑集一三巻五号七七三頁。)に反する判断をしたものであって、論旨は理由がある。

よって右各弁護人のその余の論旨、弁護人藤井亮および被告人本人の各上告趣意に対する判断をするまでもなく、刑訴法四一〇条一項本文に則り原判決を破棄し、同四一三条本文により本件を原裁判所である福岡高等裁判所に差し戻すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩田 誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)

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